【農業の省力化を実現】ロボットSIerが語る、出荷作業を「工場」に変える製造業の技術
深刻な人手不足や資材の高騰など、農業を取り巻く環境は年々変化しています。省力化や生産性向上を目指すスマート農業という言葉も定着してきましたが、高額なロボットトラクターなどの導入には、二の足を踏む人も多いのではないでしょうか。
私たち松本鉄工は、ロボットを使ってお客様の課題を解決するシステム統合の専門家、「ロボットSIer(エスアイアー)」です。農業の専門家ではありませんが、ものづくりのプロとして農業の現場を拝見したとき、「もっと身近な工程に、お役に立てる余地があるのではないか?」という気づきを得ました。
それは、トラクターが走る広い畑の中ではなく、その後の出荷に向けた作業の中にあります。
本記事では、製造業の現場を知る松本鉄工だからこそ見えた、農業の省力化について、少しお話しさせてください。
そもそも「農業の自動化」はどこまで進んでいる? 全7工程の現在地

まず、農業の工程を分解してみましょう。一般的に、農業は以下の7つのステップに分けられると言われています。
- 苗床の購入
- 土づくり・畑の準備
- 種まき・植付け
- 管理(水やり・農薬散布)
- 収穫
- 保存・貯蔵・検品・箱詰め・出荷準備
- 種取り
ロボットSIerがこのフローを見たとき、自動化技術の浸透度には差があることに気がつきました。
工程順に、それぞれのフェーズにおける現在地を整理してみましょう。
工程1〜4(準備・育成):すでに専用技術が確立されている
前半の工程である苗床購入から管理までは、いわゆるスマート農業としてイメージされやすい領域です。
ここはアームロボットや搬送システムを得意とするロボットSIerの出番ではありません。なぜなら、すでにそれぞれの分野に特化した専用の技術や製品が確立されているからです。
工程1〜4における自動化の現状を以下の表にまとめました。
| 工程 | 作業内容 | 現在の状況(ロボットSIer視点) |
| 1. 苗床の購入 | 苗や種の仕入れ | 【対象外】 商流や計画の段階であり、自動化の対象ではありません。 |
| 2. 土づくり・畑の準備 | 耕運・整地 | 【機械化済み】 トラクターなどの農業機械が主役。 最近はGPS搭載の自動運転も登場し、進化を続けています。 |
| 3. 種まき・植付け | 播種・定植 | 【機械化済み】 同上。 田植え機などの専用機械が普及しています。 |
| 4. 管理 | 水やり・農薬散布 | 【ドローンが活躍】 以前は人がタンクを背負っていましたが、現在はドローンが広大な農地をカバーできるようになっています。 |
このように、工程2〜4は広い農地を移動しながらの作業が求められます。
ここは農業機械メーカーやドローンメーカーの独壇場です。工場の中で定位置に固定して使う産業用ロボットを畑に持ち込むよりも、専用の機械を使ったほうが圧倒的に効率が良いのです。
工程5(収穫):期待は大きいが、現実は厳しい
次に、工程5「収穫」についてです。トマトやイチゴなどを自動で摘み取るロボットは、一部で実用化に向けた研究が進められています。
しかし、ロボットSIerの視点から見ると、この領域の完全自動化はハードルが非常に高いのが現実です。工場で活躍するロボットをそのまま畑に持ち込むのには「物理的な壁」が存在するからです。
具体的な課題を以下の表にまとめました。
| 課題 | 畑の環境 | 自動化のハードル(ロボットSIer視点) |
| 足場・環境 | 土や泥でデコボコしており、傾斜や段差も多い。 | 工場の床と違い水平が保てないため、ロボットの安定稼働・移動が困難。 |
| 電源確保 | 広い敷地で、近くにコンセントがない。 | 一般的な産業用ロボットは200V駆動。 畑で長いケーブルを引き回すのは困難。 |
| 対象物 | 作物は柔らかく傷つきやすい。 位置も形もバラバラ。 | 「見つける」、「潰さずに取る」ことは可能だが、高額な投資になる。 |
もちろん技術的には不可能ではありません。しかし、目(カメラ)・足(移動)・手(ハンド)のすべてに特注の技術が必要となるため、システム全体が非常に高額になってしまいます。
「高いロボットを入れるくらいなら、人が手で収穫したほうが早くて確実」という結論になりがちなのが、現状の収穫工程なのです。
工程7(種取り):特殊な専門領域
最後の工程7. 種取りは、次期作のための非常に繊細な選別が必要な作業、あるいはバイオテクノロジーの領域です。一般的な自動化・省力化の議論からは少し外れるため、ここでは割愛します。
では、ロボットSIerがもっともお役に立てる場所はどこなのか? その答えこそが、工場の自動化ノウハウと相性抜群の、工程6. 収穫後の作業なのです。
ロボットSIer視点で見る、「収穫後」の工程を省力化する本当の価値

先ほど触れた足場が悪い、電源がないといった物理的なハードルは、工程6. 収穫後の作業には存在しません。
なぜなら、ロボットSIerの視点では、「農業も、本質的には製造業と変わらない」からです。少し唐突に聞こえるかもしれませんが、ものづくりのプロセスとして比較すると、両者は驚くほど似ています。
- 製造業:原材料を仕入れ→加工・組立し→梱包して納品する
- 農業:材料(種)を仕入れ→加工(栽培)し→梱包して納品する
加工工程にかかる時間が長いという違いはあるものの、流れそのものは同じです。あえて難しい畑でゼロからロボットを開発するのではなく、環境の整った作業場から着手する。これが、コストを抑えて省力化を実現するための近道と言えます。
収穫後の工程を省力化することで得られる具体的なメリットについて、以下の3つの視点で解説します。
メリット1. 「工場と同じ環境」のため低コスト・短期間で導入可能
1つ目のメリットは、導入のハードルが低いことです。加工(栽培)の現場である畑とは異なり、出荷ラインである作業場には、ロボットを動かすためのインフラが整っています。
具体的には、以下のような作業環境の違いがあります。
- 足場:コンクリートや平らな床があり、ロボットを安定して設置できる
- 電源:建屋内にコンセントや動力電源があり、ケーブル配線も容易
- 環境:屋内であるため、畑で使うような高額な「完全防水・防塵仕様」が不要
つまり、収穫後の作業場は、畑のようにゼロからロボット本体を開発する必要がありません。
すでに多くの工場で普及している標準的な産業用ロボットをベースにシステムを構築できるため、開発コストを抑え、短期間での導入が可能になります。
メリット2. 定型作業の「ライン化」で生産性と品質が安定
2つ目のメリットは、生産効率と品質が安定することです。
畑での収穫作業は、葉の影から実を探したり、色づきを見て熟れ具合を決めたりと、一つひとつ人の目や経験に頼る部分が大きいもの。一方、収穫後の工程は、検品や箱詰めといった「決まった作業の繰り返し」に置き換えやすいのが特徴です。
具体的には、以下のような単純な動作の繰り返しに置き換えられます。
- 検品:「大きさ〇cm以上」「傷がないこと」といった判定基準を数値で設定する
- 箱詰め:決まった場所に、決まった数を詰める
- 搬送:A地点からB地点へ運ぶ
これらは製造業でいうライン作業(流れ作業)の仕組みをそのまま応用できます。
人間にとって単調な繰り返しの作業は、集中力の低下を招く一方、ロボットにとっては得意な領域です。24時間365日、ムラのない安定した品質で作業を継続できる点が大きな強みです。
メリット3. 「重労働・単純作業」からの解放
3つ目のメリットは、作業者の身体的・精神的な負担を大幅に減らせることです。
収穫後の工程には、重量物の運搬や神経を使う検品など、人手で行うには負担の大きい作業が集中しています。これらは、ロボットがもっとも得意とする分野です。
以下に、現場を悩ませる「3つの負担」と、自動化による解決策を整理しました。
| 現場の負担(悩み) | ロボットSIerによる解決策 |
| 1. 目視検品の限界 疲労による見落としや、人による判断基準のブレ(ヒューマンエラー)が発生する。 | 【画像センサーによる選別】 疲れを知らないカメラやセンサーが、設定された基準通りに合否を判定。 誰がやっても品質が変わらなくなります。 |
| 2. 計量の微調整 はかりに載せたり降ろしたりを繰り返す手間。 重量不足のクレームも怖い。 | 【自動計量・充填】 設定重量に達した瞬間に供給を自動でストップ。人手による「出し入れの微調整」の手間をゼロにします。 |
| 3. 重量物の負荷 完成した重い段ボール箱を積み上げたり、トラックまで運んだりする腰への負担。 | 【重量物の運搬ロボット】 重量物運搬用のアームを導入。 人がしたくない重労働を代替します。 |
これらの負担をロボット技術で解決することにより、人は単純作業や重労働から解放され、より付加価値の高い栽培管理などの作業に集中できるようになるでしょう。
農業特有のハードルをクリアする・松本鉄工の「技術と工夫」

「収穫後には、工場のライン作業が応用できる」とお話ししましたが、もちろん農業には工場とは違う難しさがあります。
ネジのような規格統一された工業製品と違い、農作物は一つひとつ形が違う上、柔らかく傷つきやすいものです。
しかし、現在は技術の進歩や工夫によって、農業特有の課題も解決できるようになってきています。
ここからは、具体的な解決策として3つの技術をご紹介します。
技術1. 「傷つけずに掴む」食品専用ロボットハンド
かつては難しかった「不均一な形」や「柔らかいもの」を掴む作業も、現在は技術が大きく進歩しています。
食品を傷つけない材質や形状のハンド(ロボットの手先)が開発されており、衛生面でも機械の金属粉や汚れがつかないような配慮がなされています。
こうした最新技術を適切に選定・組み合わせることで、「みかんをそっと掴む」といった繊細な動作にも対応可能です。
技術2. 「袋取り」のようなニッチな手作業の自動化
こちらは実際に松本鉄工が手がけた事例です。果物を一つひとつ個包装するラインの中で、自動化できずに課題となっていたのが、「ビニール袋の束から、どうやって1枚ずつ取り出すか」という点でした。
私たちはこの課題に対し、斜めにセットした袋の束をロボットハンドでやさしく叩いて少しずつずらすことで、1枚ずつ取り出せるようにしました。ロボットに人間の手のような「繊細な動き」を再現させることで課題を解決したのです。
非常に細かな作業ではあるものの、袋詰めを1日に何百回も繰り返す現場にとっては、大きな省力化につながりました。
技術3. 「重量調整」の自動制御でヒューマンエラーを削減
箱詰め工程で、何度も中身を出し入れする微調整は重労働です。
ある現場では、この微調整の回数がベテランとそうでない人では大きく異なり、身体的な負担になっていました。熟練者は経験から調整をすぐに終えられますが、慣れていない人は何度も重い箱をはかりに載せたり降ろしたりしなければならないためです。
そこで私たちは、「はかりの上の箱に農作物を流し込み、設定重量に達した瞬間に供給を自動ストップする」という仕組みを提案しました。
自動化には必ずしもアーム型のロボットが必要なわけではありません。センサーと制御の組み合わせだけで、熟練者の勘や経験に頼ることなく、重労働から解放されることも可能なのです。
まとめ|「出荷準備」の自動化で、農業経営に新しい選択肢を

高額なロボットトラクターの導入だけが、農業における省力化の答えではありません。ぜひ一度、収穫後の作業場を改めて見渡してみてください。
長時間の目視検品、繰り返される箱詰め、そして腰に負担のかかる重量物の運搬。そこには、ロボットに任せることで、もっと楽になる作業が残っていませんか?
ロボットなら疲れを知らず、淡々と正確に働き続けます。
大切に育てた農作物を市場へ送り出すための、出荷準備という最終工程。人手不足や品質の安定、重労働の解消など、農業も製造業も抱える悩みは同じです。ここにある課題こそ、ロボットSIerがもっとも貢献できる分野です。
「この手作業さえなくなれば、もっと経営が効率化できるのに」。そう感じている工程があれば、ぜひ松本鉄工にご相談ください。製造業の現場で培った技術から農業の現場に合わせた解決策をご提案いたします。
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