【製造業の人事評価制度】テンプレートでは続かない? 10年以上運用してわかった、中小企業で本当に機能する評価制度の作り方
「人事評価制度を導入したけど、結局うまく回らなくて形骸化してしまった」
「テンプレートを使ってみたものの、自社の現場に合わなくて続かない」
製造業の中小企業において、人事評価制度の導入と定着は長年の課題です。
大手企業向けのフォーマットをそのまま取り入れても、現場の実態に合わず、気づけば「あるけど意味のないもの」になってしまう。そんな経験をお持ちの経営者の方も多いのではないでしょうか。
私たち松本鉄工は、1965年創業の製造業の会社です。代表の私(杉原)が10年以上にわたって人事評価制度を運用し続け、試行錯誤を重ねてきた結果、完全フレックス制の実現、そして自己都合での退職がほとんど発生しないという状態を実現できました。
この記事では、その実体験をもとに、中小製造業が本当に使える評価制度の考え方をお伝えします。
なぜ製造業の人事評価制度は「続かない」のか?

1.テンプレート導入の落とし穴
世の中には人事評価制度のテンプレートやパッケージが数多く存在します。「導入するだけで組織が変わる」と期待して取り入れてみたものの、半年、1年と経つうちにフェードアウトしていく。これは製造業の中小企業で非常によく見られるパターンです。
その最大の理由は、テンプレートが「汎用的であるがゆえに、自社の現場に合わない」ことにあります。
製造業の評価で難しいのは、職種によって仕事の性質がまったく異なる点です。エンジニア(技術職)は目の前のものづくりに集中することが仕事ですが、営業は案件を獲得して売上を立てることが仕事です。事務職はまた別の役割を持っています。
それなのに、全員を同じ物差しで測ろうとするから、「この評価基準、自分の仕事と関係ないよね」という不満が生まれ、制度そのものへの信頼が失われていくのです。
2.外部コンサルに頼んでも定着しない理由
テンプレートがダメなら、人事評価制度の導入支援をしている会社に依頼しようと考える方もいるでしょう。
しかし、ここにも落とし穴があります。
多くの場合、導入支援会社は採用支援や助成金とのセット売りで評価制度を提供しています。
そのため、制度設計の「深さ」がどうしても限定的になりがちです。最初のうちは新鮮味もあって回るのですが、「ここは自社に合わないな」という点が出てきたときに、柔軟に修正できず、結局そのまま使われなくなっていく。私自身も多くの経営者の方とお話しする中で、このパターンを本当によく耳にしてきました。
「流行りの施策」は全部試した。でも、全部続かなかった。
正直に言えば、私自身も最初からうまくいったわけではありません。
2011年、25歳で代表取締役に就任した当時、先代の社長がどういう基準で給与や評価を決めていたのかすらわからない状態でした。
「社員の給料を上げたいけど、何を根拠にどう上げればいいのかわからない」
これが出発点です。
そこから、世の中で流行っている施策を片っ端から試しました。「1on1ミーティング」を導入してみたり、朝礼で社員に順番に前に立って話してもらったり、社員証の裏に目標カードを書かせたり。どれもよく聞く施策ばかりです。
結果は、どれも続きませんでした。
形だけ取り入れても、社員にとっては「やらされている感」が拭えない。
目標カードに書いたことと、日々の業務が結びつかない。
そうなると、制度そのものが形骸化していくのは時間の問題でした。
この経験があるからこそ、「仕組みの形」ではなく「評価の中身」を自分で作らなければいけないと気づいたのです。そこから約10年前に現在の人事評価制度の原型を導入し、2018年には「機会平等」の考え方を軸に制度を大きく見直しました。
以来、毎年改善を重ねながら今に至っています。
10年以上運用し続けている人事評価制度の3つのポイント

1.「自分でコントロールできること」だけを評価する
私が評価制度で最も大切にしている考え方が、「従業員が自分の努力でコントロールできることだけを評価軸にする」というものです。
当初は、よくある形で「売上高」や「粗利率」を全社員共通の評価項目にしていました。しかし、これだと現場で実際にものづくりをしているエンジニアにとっては不公平です。どんな案件を受注するかは営業が決めることであり、その案件がいくらの金額になるかはエンジニア個人の力ではどうしようもありません。
しかし、与えられた仕事を「いかに効率よく、少ない工数で仕上げるか」は、エンジニア自身の工夫と努力で変えられます。
本来かかるはずの工数を、工夫次第でより少ない工数で仕上げれば、その分だけ粗利率が良くなる。だからエンジニアの評価軸には「粗利率」を採用しました。
一方、営業職に対しては「粗利高」を評価軸にしています。売上の大きさではなく、どれだけ利益を会社に残せたかで評価する。こうすることで、案件の大小に関係なく、しっかり利益の出る仕事を取ってくるインセンティブが働きます。
このように、「この人の仕事において、自分が頑張れば結果が変わる部分はどこか?」を職種ごとに突き詰めて設定する。
これが、評価制度を「自分ごと」にできるかどうかの分かれ目だと考えています。
2.残業を減らすほど評価が上がる仕組み
私たちの評価制度の中でも特にユニークで、社内外から好評なのが「残業時間に関する評価項目」です。
一般的には、残業が多い=頑張っている、と見なされがちな風土が製造業にはあります。しかし、私たちはまったく逆の発想を取り入れました。残業時間が少ないほど評価が上がり、多いほど評価が下がる仕組みにしたのです。
これは全従業員に共通して適用される項目です。残業時間が一定の基準より少なければ加点され、多ければ減点される。月に何十時間も残業していれば、それだけで評価に大きなマイナスがつきます。
この仕組みには二重の効果があります。
一つは、従業員が「いかに効率よく仕事を終わらせるか」を自発的に考えるようになること。もう一つは、会社全体としての残業時間が減り、時間外手当のコスト削減と働きやすい職場環境の両方が実現できることです。
「長く会社にいること」ではなく「限られた時間で成果を出すこと」に全員の意識が向くようになりました。
3.年2回の「給与査定」で緊張感と納得感を両立
私たちは「昇給」ではなく「給与査定」という言葉を使っています。年に2回の査定があり、評価に応じて給与が上がることもあれば、下がることもある。この双方向性が、制度に緊張感を持たせ、形骸化を防いでいます。
「給与が下がるのは厳しいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、評価軸が「自分でコントロールできること」に限定されているため、下がった場合も「あの部分が足りなかったな」と自分で納得しやすい構造になっています。
そして次の査定で挽回するチャンスがすぐに来る。
この短いサイクルが、モチベーション維持に大きく貢献しています。
評価制度があったから実現できた「3段階の働き方改革」

評価制度を整えたことで、私たちは段階的に働き方を進化させることができました。この変化は一気に起きたものではなく、社員の声を聞きながら、一つひとつ積み上げてきた結果です。
STEP1.半日有給の導入
もともと私たちの会社は、有給休暇は1日単位でしか取得できませんでした。しかし、「午後から病院に行きたいだけなのに、丸一日休まなければいけない」という声があり、まず半日有給を導入しました。
これだけでも、社員からは「ありがたい」という反応がありました。
STEP2.時間単位有給の導入
半日有給を運用するうちに、今度は別の課題が見えてきました。たとえば、午後3時からの病院に行くために半日有給を取ると、12時から3時までの3時間が宙に浮いてしまう。仕事をしてもいいけれど、半日有給を取らないと病院に間に合わない。
この「もったいない時間」をなんとかしたいという社員の声を受けて、時間単位で有給を取得できる制度を導入しました。
STEP3.完全フレックス制+リモートワークの導入
時間有給まで整備したところで、「そもそも8時〜17時で全員を縛ること自体がナンセンスではないか」と考えるようになりました。
そして2023年に思い切って完全フレックス制を導入し、同時にリモートワークもOKにしました。全従業員にiPhoneを配布し、手元で出退勤の打刻ができる仕組みも整えました。
導入時には、猛反対がありました。
特に経理や事務の社員からは
「自宅で出社ボタンを押すだけで働いたことになってしまう」
「サボる社員が出るのでは」
「せめてコアタイムを設けるべきだ」
という意見が相次ぎました。
しかし、私には確信がありました。すでに評価制度がしっかり機能していたからです。仮にサボったとしても、全員が日報を書く必要がありますし、エンジニアであれば作業をしなければ粗利率に響きます。
つまり、サボれば自動的に評価が下がり、次の給与査定で給与に跳ね返る。
この仕組みがあるからこそ、「評価制度があるから大丈夫。サボってもいいけど、多分評価が下がるようになっているから」と反対を押し切る判断ができたのです。
結果はどうだったか。
心配されていた「サボり社員」は出ていません。
基本的にみんな真面目に出社して、普通に仕事をしています。ただ、子どもが急に熱を出したときに10時出社にできたり、親の介護で一時的に勤務時間を調整できたり。そうした「たまにある、でも対応できないと困る場面」に柔軟に対応できるようになったことで、社員の安心感は格段に上がりました。
製造業は工場で手を動かさなければいけない仕事です。だから基本的には皆さん普通に出社します。でも、「できるようにしておく」ということ自体が、人生のさまざまなステージにいる社員にとって大きな意味を持つのです。
10年以上の運用がもたらした成果
1.自己都合での退職がほとんど発生しない
評価制度の運用とフレックス制の導入以降、自己都合による退職がほとんど発生していません。退職があったとしても、定年や配偶者の実家への転居といった、やむを得ない理由ばかりです。
製造業全体で人手不足が深刻化する中、この定着率の高さは私たちの大きな財産になっています。
2.評価制度がすべての土台になっている
振り返ってみると、フレックス制もリモートワークも、すべて評価制度が先にあったからこそ実現できたものでした。「サボったら評価が下がる。頑張れば評価が上がる。」このシンプルな仕組みが土台にあるからこそ、働き方に自由度を持たせても組織として成り立つのです。
【まとめ】人事評価制度は「完成」は存在しない。

人事評価制度は、一度作って終わりのものではありません。私たちも、年に1回程度のペースで「この項目は効果があったか」「もっといい評価軸はないか」を見直し、効果がなければやめ、良さそうなら続けるということを10年以上繰り返してきました。
大切なのは、ガチガチに固められた外部パッケージに頼るのではなく、自社でカスタマイズし続けられる柔軟性を持つこと。
そして、従業員が「自分の努力で変えられること」を評価軸に据えること。
これらを押さえれば、評価制度は必ず「生きたもの」として機能し続けます。
「うちも評価制度を入れてみたけど、続かなかった」という方こそ、もう一度、自社の現場に本当に合った仕組みを考えてみてはいかがでしょうか。
私たち松本鉄工では、自社の人事評価制度に関するご相談やご質問も受け付けております。
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