「自動化=人を減らすこと」ではない|工程を見直したら、採用難が解消した工場の話
「自動化・省力化を検討しませんか」
こう聞いたとき、多くの経営者が思い浮かべるのは、人をロボットに置き換えて人件費を浮かせる光景ではないでしょうか。3人でやっていた作業を1人に。無人のラインが黙々と製品を吐き出していく。そのようなイメージです。
しかし私たちが現場でお手伝いしたある事例は、まったく違いました。ロボットも入れず、大がかりな設備もなく、それでも経営者が長年抱えていた「人が採れない」という悩みそのものが消えたのです。
「求人を出しても応募が集まらない」
「来てくれるのは女性や高齢の方が中心で、任せられる工程が限られる」
もしこのようなお悩みをお持ちなら、見直すべきは求人票ではなく、工程の設計かもしれません。
今回は、さまざまな業界で現場に合わせた設備づくりを手がけてきたロボットSIer・松本鉄工が、「人を減らさない自動化・省力化」という考え方についてお話しします。
人が採れない工場は、応募者を「体力」でふるいにかけている

人手不足に悩む工場を訪ねると、原因が求人の出し方ではなく、工程そのものにあるケースに出会うことがあります。応募は来ている。それなのに現場が回らないのは、来てくれた人を受け入れられない作業が残っているからです。
働き手が都市部へ流れる、大都市圏近郊の宿命
東京や大阪、福岡といった大都市の周辺県では、似たような構造を抱えている工場が少なくないと感じています。給与水準の高い都市部へ通える距離にあるため、体力のある若い働き手ほど、そちらへ流れていく傾向があるのです。
一方で、地元で働きたい層は確実に存在します。通勤コストを抑えたい方、お子さんの送り迎えがありフルタイムや遠距離通勤が難しい方、地元に貢献したい高齢の方。求人を出せば、応募自体は集まります。
つまり大都市圏近郊の工場にとっての課題は「応募が来ない」ことではありません。集まってくれた方に任せられる作業が、現場に用意されていない。採用の入り口ではなく、工程の側に詰まりがあるのです。
重いものは、誰にとっても重い
女性や高齢の方が持てないほど重たいものは、体力に自信のある人にとっても軽くはありません。力技でこなせているように見える工程は、その人の身体を毎日少しずつ削っています。今日は運べても、10年後に同じ人が同じ速度で運べる保証はどこにもありません。
重量物の工程とは、特定の誰かが苦手な作業ではなく、全員の身体と現場の持続性を賭け金にした作業です。人を作業に合わせて選別するのではなく、作業を人に合わせて設計し直す。その視点が、採用の悩みを解くきっかけになります。
【事例】50kgのロール材を、ロボットなしで人の手から切り離した

ある地方の工場では、重量物を持ち上げる工程をたった1台の装置に肩代わりさせたことで、採用の悩みが消えました。複雑なロボットアームも、大がかりなラインの改修も使っていません。
提案したのは、自動化ではなかった
その工場では、ロール状に巻かれた資材を裁断・加工して製品をつくっていました。製品1つあたりは大した重さではなくても、幅の広い資材がぐるぐると巻かれたロールは50kgから100kg近くになります。それを加工装置の手前で人が持ち上げてセットする。体力頼みの工程が、ラインの入り口に居座っていました。
最初のご相談は「この工程を、どうすれば自動化できますか」というものでした。しかし現場を拝見してお話を伺うと、売上は伸びていて、応募も来ている。足りないのは人数ではなく、重量物を扱える人だけだとわかりました。
ならば、高額な全自動化は答えではありません。目指すゴールを、作業内容そのものの見直しへ置き直しました。
「持ち上げる」という一動作だけを、機械に渡す
提案したのは、ロール材の手前に設置する昇降装置です。ボタンを押すと重いロール材が自動で持ち上がり、あとは従来どおり人が作業します。機械が肩代わりするのは、人が持ち上げるという一動作だけ。工程を丸ごと置き換えないぶん、導入価格も抑えられました。
発想としては、介護の現場で使われる装着型のロボットスーツに近いものです。人の仕事を奪うのではなく、負荷だけをそっと抜き取る。見た目は地味ですが、現場にもたらす変化は劇的でした。
装置1台が変えたのは、作業ではなく「経営の前提」

導入後も、作業者の人数は1人も減っていません。工程を担当するのも従来どおり人間です。一般的に自動化と聞いてイメージするものとは、少し違うかもしれません。それでも、この工場には2つの大きな変化が起きました。
品質と教育コストが、作業者の熟練度から切り離された
機械が持ち上げと位置決めを補助することで、作業者による出来不出来の差が小さくなりました。品質が個人の熟練度や体格に左右されにくくなったのです。
これは、シフトの組み方にも効いてきます。「この工程はあの人でないと回らない」という状態が解消されれば、休みや退職のたびにラインが止まるリスクも下がるでしょう。
また、新人教育の負担も軽くなります。数ヶ月の訓練が前提だった工程を、入ったばかりの方が同じ品質でこなせるなら、教育コストそのものが下がります。人を育てる時間を、設備が肩代わりしてくれるイメージです。
応募者を「持てるかどうか」で選ばなくてよくなった
もっとも大きな変化は採用面で起こりました。重量物の工程がボタン操作に変わったことで、応募者を体力でふるいにかける必要がなくなり、来てくれた方をそのまま戦力にできるようになったのです。
募集要項から「力仕事あり」という一文が消えるだけで、応募のハードルは変わります。地元で働きたいと考えていた層に、そのまま届くようになったのです。昇降装置の導入は設備投資でありながら、実質的には採用への投資でもありました。
募集のたびに頭を抱えていた悩みが、装置1台でなくなった。経営の前提が変わったと言っていい成果です。
自動化は一つではない|言葉の違いと、増え続ける選択肢

私たちは自動化・省力化・生産効率アップという言葉を、意識して使い分けています。人を減らして人件費を浮かせるのは、数ある手段のうちの1つにすぎないからです。目的を混同したまま設備を選ぶと、投資の効果は簡単にぶれてしまいます。
人を減らさず、生産数を上げるという投資
今回の事例は採用の悩みを解決したケースでしたが、省力化の効果はそれだけではありません。熟練者にしかできない工程があっても、諦める必要はありません。手を入れるのは、匠の技が必要な工程ではなく、その前後の作業です。
たとえば、重量物の溶接。重くて持てないため、部品を治具にセットし、作業者が体をねじりながら回り込んで溶接する。溶接が終わったら外して、また次の部品をセットする。技術が必要なのは溶接そのものだけで、それ以外は段取りと力仕事です。
ここに機械を入れると、重い部品を保持したまま、溶接しやすい向きへ回転させることができます。作業者は姿勢を崩さず、溶接だけに集中できる。工程は自動化されていませんが、1日に仕上げられる数は変わります。
熟練の技は人が担い、力仕事と段取りは機械が担う。人件費を1円も削らずに、売上を押し上げる。設備投資には、そういう使い方もあります。
スペースがない工場にも、道は増えている
選べる方法そのものも、年々広がっています。今回のように装置1台でシンプルに解決できるケースもあれば、あえてロボットを使いながら別の課題をクリアするアプローチもあります。
かつては安全柵を設置するスペースが確保できず、ロボット導入を断念した工場が数多くありました。安全柵は、ロボットが腕を最大限に伸ばしても届かない範囲までを囲う必要があります。アームが振り回される半円の軌道すべてが対象になるうえ、その周囲に制御盤などの装置も置くとなると、想像以上に場所を取るのです。
現在は、人と同じ空間で作業できる協働ロボットという選択肢もあります。安全性が確保されているため、柵を前提としない設備の組み方が可能です。
「工場が狭いから」「柱が邪魔だから」という理由で一度は諦めた現場にこそ、あらためて検討する余地が生まれています。
工場効率化診断で、現場の「詰まり」を確かめる

自社の現場のどこに解決の糸口があるのか。それを確かめる一番の近道は、客観的なプロの目を入れることです。
工場効率化診断では松本鉄工が現場へ足を運び、ヒアリングと視察をしたうえで、以下の3点を納品します。
- 3D CADによる構想図面
- 概算見積もり
- 投資回収試算
費用は20万円(税別)+交通費です。提案できないと判断した場合は一切の費用がかからず、発注に至った場合は診断費用が受注額から差し引かれます。
大切なのは、いきなり設備を選ばないことです。何を自動化したいかより先に、どの作業が人の身体や採用の足かせになっているのかを見る。一つずつ確かめていけば、今回の事例のように、ロボットを使わずに解決する道が見つかることも珍しくありません。
まとめ|求人票を書き直す前に、工程を書き直す

人手不足への対応として、求人や待遇にコストをかけることは重要です。しかし、工程が変わらない限り「任せられる人が来ない」という悩みは、形を変えて何度でも戻ってきます。
自動化・省力化とは、人をロボットに置き換えることだけを指す言葉ではありません。特定の人にしか任せられない作業をなくし、誰が働いても成立する現場をつくること。その結果として、採用の間口が広がり、品質が安定し、生産性が上がっていくのです。
「うちの現場では無理だろう」と決めてしまう前に、まずは工程を見せてください。変えるべきは、人ではなく工程かもしれません。
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